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2006年6月20日 (火)

西洋中世美術史入門講座を受けて(その2)

先週末、朝日カルチャーセンターの講座「西洋中世美術史入門」の第2回があった。今回は「人間と空間」という観点から、中世美術の特徴を理解しようという試みでありました。講義の要点をまとめると次のようです。

1.中世では美術はどんな場所に置かれていたか?
現代では美術は美術館やギャラリー、公共の空間に置かれるのが普通だが、中世では「教会堂」「修道院」「宮廷」「個人の邸宅」に置かれた。そして大事なことは、個々の美術毎に置かれる場所が決まっていて、そこではっきりとした役割を果たすことが求められていた。

2.巡礼
人間の美術との関わり方はとても幅広い。美術を見るために遠くへ出かけて行くという関わり方―巡礼もあった。巡礼は古代から現代まで宗教や地域の違いを超えて普遍的に行なわれている。西洋中世でも盛んで、最も有名なものは「サンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼」である。これは、9世紀にスペイン北西部のこの地で聖ヤコブの遺骸が発見されたことに端を発する。当時の巡礼者数は毎年20~50万人。3~4ヶ月の旅であった。目的地のサンチャゴ・デ・コンポステラの聖堂はもちろん、出発地点の一つに定められたヴェズレー(フランス)のラ・マドレーヌ聖堂も素晴らしい美術で飾られている。さらに聖遺物(前回報告参照)も素晴らしい美術に包まれているし、面白いことに巡礼のお土産として銀製のバッジや金属製のホタテ貝が大量に作られたりした。

3.世界と宇宙、天国と地獄
中世ではこれらがどのように捉えられていたか?世界というか宇宙というか、を現わす地図のような絵がいろいろ残されている。大概、創造主による天地創造と一体になっている。地図の場合、中心はエルサレム。
天国と地獄に関しては、教会のタンパンの彫刻に描かれている例や、マンテーニャの地獄は地上の何処かにあり、見つけることができるという信念に基づいた絵などが紹介された。

4.中心と周縁
これは面白い視点であった。マイケル・カミール著「周縁のイメージ―中世美術の境界領域」という本がベースになっているようです。
・中心を置くことで(明確にすることで)生じる周縁部や余白の存在
・逆に周縁があることで、中心は中心となって行くとも言える
・中心部は、それ自体を存続させるために周縁部に依存していたとも言える
このようなことから、
・「ひとつの全体」の中で美術を見たり、考えたりする必要がある
・対概念では捉えられない、中心と周縁の密接な関係に目を向けるべき
講義では、実例として教会内部の祭壇のある部分の写真がスライドで示されます。漠然と見ると、壁の精緻な絵や彫刻に目が行ってしまうが、中心はあくまでも祭壇なのである。当時の人にとって祭壇はとてつもなく大切なもので、この「空間」の中で祭壇を(その重みに相応しい)中心たらしめるために、周縁の飾りは存在するのです。(こういう理解でよかったかなあ?)

5.中世の「芸術家」
中世の芸術家が無名であったというのは、一種の神話に過ぎない。多くの芸術家の名が知られているとのことです。ただし、芸術家とその注文主(パトロン)では後者がうんと重んじられた。作品における署名が一般化するのは19世紀で、中世の作品では少ない。「・・・が制作」「・・・が完成」との文字も時々見られるが、注文主なのか、芸術家なのか不明な場合が多い。

6.石工と彫刻家
現代では「彫刻家」は芸術家を意味し、石工とははっきり区分するが、中世においては全てが石工であっった。石を切り出す人と、それから意味ある形を彫り出す人が一緒に働いている絵が沢山残っている。しかし、能力についてはキチンと評価されていたようで、高い技術には高い賃金で報われていた。
ミケランジェロが彫刻家になりたいと言明した時、彼の父は石工になることは絶対に許さないと、拒否したそうです。

当日の講義では、多数のスライドで実例が紹介され、講師の深い知識や洞察力に基づく興味ある説明がありました。この辺りが当講座の真骨頂です。
ところで、今回のスライドの中に何枚ものタンパンの浮き彫りが紹介され印象に残りました。タンパンとは中世建築において、出入り口のアーチの上部に横に渡した梁との間に出来る半円形の小壁部分を言い、特にフランスの聖堂では立派な浮き彫りや彫刻で飾られるのです。例えば、ヴェズレーのラ・マドレーヌ聖堂のタンパンには「聖霊降臨」の浮き彫り、オータンのサン・ラザール大聖堂およびコンクのサント・フォア教会のタンパンには「最後の審判」の浮き彫りがあり、写真をスライドで見ることが出来ました。

講義とは関係ないのですが、タンパンの1例を手持ちの美術書の中から選んで示しておきます。
Photo_41
フランス東部にあるストラスブール大聖堂の南扉口
上部の半円形部分がタンパン



Photo_42
南扉口左側のタンパンの拡大図
この「聖母の死」の彫刻はとても情感豊か

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