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2006年9月 2日 (土)

講座「心の耳で聴くバッハ」を受けて(2)

8月27日に、朝日カルチャーセンターの講座「心の耳で聴くバッハ」の第2回があった。
この講座のタイトルは、最初は「バッハの教会音楽における言葉と音」だったが、あまりに直截的であるからだと思うが、講師としては「心の耳で聴くバッハ」に変えたいようである。これまでの講義からは両方とも適切だと感じました。
今回は、バッハが21~2歳の時に作ったカンタータ106番をとり上げて、音楽の構造と、音楽と言葉との関係を、解明するという内容でした。
核心部分の楽譜が配られ、CDを聴き、講師はキーボードや自分の歌声で丁寧に説明してくれる。楽しく、刺激的な2時間はあっという間に過ぎてしまった。

これを文章にするのは至難のワザ。一応、記録したメモによりその一端を書いてみよう。

106番は最初期(17078)のカンタータにもかかわらず完成度が高く、素晴らしい曲である。バッハの傑作のひとつに数えられる。20世紀最大のバッハ研究家アルフレッド・デュルによれば、バッハはこの曲により他を一挙に抜き去った、と言っている。
BWV106  Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit(神の時こそ いと良き時)。葬送がテーマである。
使用される楽器は質素な編成である。
リコーダ(アルト)×2、ヴィオラ・ダ・ガンバ×2、通奏低音(オルガン、ヴィオローネ)。 これは古い形態であり、バッハの時代にはリコーダはフルートに、ヴィオラ・ダ・ガンバはチェロに変わって行く。

カンタータは小型のオペラのようなものと考えてもよく、合唱や独唱、重唱により言葉が添えられる。言葉との関連で音楽の進行を見て行くと、およそ次のようである。
1 ソナチネ
a 合唱;「時、死」…“神により定められたことである”
 b テノールソロ;“私たちは死なねばならない”
 c バスソロ;“汝は死に、生きながらえることはできない”一挙に緊張   
  d
合唱;“汝は死ななければならない(外伝)”“古い定めだ(旧約)” 
   ソプラノソロ;“しかり、イエスよ来て下さい(新約)”
           
…聖書を閉じるにあたっての言葉「神を待望」
  器楽によるコラール;我は我がことを神にゆだねたり
            
(タイトル…民衆は言葉を知っている)
   《このdの部分は多層的に重ねられている》←楽譜をもらった
3 アルトソロ;“ゆだねる”
  バスソロ;(その答えとして)“救いはパラダイスにある”

                                        ←十字架上での言葉
  コラール;“平安と喜びを持つ 我は往く”
4 コラール;(感謝)と賛美

構成としては、2のdの部分を中心としてシンメトリーに作られている。言葉も建築物のように組み立てられている。
コラールは中央部の後半になって初めて出てくる。(イエスの登場まで待って)

さらに、バッハは、「古き律法(定め)」と「イエスによりもたらされた福音」を次のように音楽的にくっきりと対比させて作曲している。
      古き律法         福音(エヴァンゲリウム)
編成    合唱           ソロ
様式   厳格(模倣:フーガ)   自由(モノディ:通奏低音+ソロ)          
     古風(ルネッサンス)   バロック

音域   低い(下3声)      高い(最上声:ソプラノ=天に近い) 
     バス+Vl.gamb+通奏低音  Fl.tr  Ob.cac. 通奏低音なし
        →低音強調
    “死なねばならない”と歌う “イエスよ来てください”と歌う
リズム  一定、穏やか4、8分音符 16分音符
強弱   一定 指示なし      変化 エコー 最後はピアニッシモ
コラール  なし           あり  

     (コラールとは全会衆によって歌われる賛美歌)
   

音楽の構造としては、隅々まで実によく考えられており、バッハの知性・理性が強く感じられる。しかしながら、曲を聴く限りそんなことは全く思い浮かばない。
我々は、頭(理性)と心(感性)を分けて考えることに慣れているが、バッハの時代には両方不可分だったことに留意する必要がある。
「心の耳で聴く」と言う時には、このような理性もまたバッハの心であることを、理解した上で聴いて欲しい、と講師は強調するのです。

なお、この曲の中核部(2の部分)は、既に述べたように、「古き律法」と「福音」を象徴する低音と高音が絡み合いながら進行するが、最後には高・低音両方が一緒に“イエスよ来てください”と歌って、終わるのです。見事としか言いようがない。

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